シノプシス:Imperial Cruise

仮題『大統領のクルーズ』

原題:Imperial Cruise

著者: James Bradley (ジェイムズ・ブラッドレイ)

発行年月:2009年11月(ペーパーバック版2010年11月)

版元:Little, Brown & Company /Hachette Book Group

ページ数: 本文ページ数336

【著 者について】1952年、ウィスコンシン州生まれ。第二次大戦の激戦地硫黄島で星条旗を立てる兵士の銅像のモデルとなった父が、戦争で実際に何を体験した のか、父の死後に調査し書き上げた『硫黄島の星条旗』(文春文庫)はクリント・イーストウッド監督により2006年に映画化された(映画邦題『父親たちの 星条旗』)。本作は3作目のノンフィクション。著者ウェブサイト:http://jamesbradley.com/

【概要】歴史ノンフィクション。20世紀初頭、セオドア・ルーズベルト大統領が東アジアへ送り出した使節団の軌跡を追いながら、米国の拡大政策と人種偏見が20世紀のアジア地域に残した影響を鋭く批判する。

目次

第1章    20世紀初頭の航海 One Hundred Years Later

第2章    文明は西へ Civilization Follows the Sun

第3章    博愛精神 Benevolent Intention

第4章    太平洋のニグロ Pacific Negroes

第5章    ハワイ Haoles

第6章    名誉白人 Honorary Aryans

第7章    ルーズベルトのゲーム Playing Roosevelt’s Game

第8章    日本のモンロー主義 The Japanese Monroe Doctrine for Asia

第9章    インペリアル・クルーズ The Imperial Cruise

第10章  門戸開放と閉鎖政策 Roosevelt’s Open and Close Doors

第11章  こっそり日本再訪 Incognito in Japan

第12章  韓国への裏切り Sellout in Seoul

第13章  日輪を追って Following the Sun

 

第1章    20世紀初頭の航海

『硫 黄島の星条旗』で、自分の父親が体験した第二次大戦の虚実を追った著者は、米国が戦争に至った理由に興味を持ち、その発端を1905年の使節団航海に見出 した。Tルーズベルト時代の米国は太平洋への勢力拡大をすすめ、アジア太平洋地域の各地に深い影響を残した。航海から100年後にあたる2005年、著者 はすべての寄港地を取材し、これまでの伝記では明らかにされて来なかった大統領の秘密外交や歪んだ人種観が蒔いた種を見出した。

第2章  文明は西へ

1905年、タフト陸軍相、ルーズベルト大統領の娘アリス、米国議員30名からなる大使節団が客船「マンチュリア」号でサンフランシスコからアジアを目指 し出港した。21歳のアリスは「プリンセス」として行く先々でマスコミの大きな注目を集め、広告塔の役割を果たした。この章はアリスの生い立ちに触れなが ら一行の船出までの足取りを追い、サンフランシスコでの「フィリピン人に自己統治能力はない」というタフトの講演を紹介する。これはアーリア人は優秀人種 であり世界文明の担い手だという当時の常識・学説に基づいたものだった。章の後半ではルーズベルト大統領の富裕な生い立ちと、「未開の地を銃で征服する マッチョな白人男性」という虚構がいかに作られ、当時の社会に広く影響したかが述べられる。

第3章  博愛精神

こ の章は、米国建国以来の西進政策を詳説する。対インディアン戦争は米国のもっとも長い戦争であり、軍による虐殺であった。原住民を掃討しながら西へ国土を 広げた米国は、19世紀、海外に目を向ける。マッキンリー大統領の下で重要ポストに就いたルーズベルトは急進的開戦主義者で、米西戦争に向け国を動かした 一人だった。キューバ人民の解放を大義とした米西戦争で米国はカリブ海と太平洋に勢力を広げるが、スペインから「解放」した有色のキューバ人やフィリピン 人を米白人は下等人種とみなし、博愛精神をもって野蛮人を文明化するのは優等人種である白人の責務であると喧伝し、植民地化を正当化する。

第4章  太平洋のニグロ

米西戦争後の米国によるフィリピン制圧と統治の実態を描く。フィリピン人政府は正常に機能しているという報告は握りつぶされ、米軍が独立を求める人民軍を 制圧、軍を挙げて拷問、強姦、略奪など残虐な行為を繰り返し、一般人多数を殺害した。近年イラク戦争で問題となった「水責め」の拷問は、当時日常的に行な われていた。米国はフィリピン総督を置き、少数の現地人エリートに利権を付与し、後の腐敗政治の基礎を築いた。マッキンリー暗殺後大統領に就任したルーズ ベルトは、セントルイス万博の展示で、フィリピン人の未開性を米国市民に印象付けることに成功した。

第5章  ハワイ

フィリピン総督を務め、陸軍相となり、後に大統領となるタフトの背景やキャラクターを紹介。サンフランシスコから到着した「マンチュリア」号の一行を歓迎 するホノルルの様子を紹介し、航海の10年ほど前に米国領となったハワイの歴史に触れる。宣教師として来た白人たちは1世代の間にハワイの政治中枢を握 り、やがて砂糖きび農場主の米国白人が海兵隊を動員して強引に王権を覆し、米国に併合させた。ここにも明らかな米国の拡大・植民地主義があった。

第6章    名誉白人

横浜に寄航した「マンチュリア」号一行は熱狂的な歓迎を受ける。日露戦争で米国が日本の側に立ち、ロシアとの間で講和を有利に進めてくれるとの期待による ものだった。ペリー来航から明治維新、日露戦争までの歴史を、帝国主義に傾いていた米国からの視点で語られ、新生日本政府に台湾出兵を焚きつけた米人リ・ ゼンドルが日本帝国主義の萌芽を生んだ人物としてe描かれる。列強に追いつこうと西洋文明をためらわず取り入れた日本人を米国人は「名誉アーリア人」と位 置づけ、自らのアジア進出の駒として利用しようとした。

第7章 ルーズベルトのゲーム
この章では、日英同盟から日露開戦までの日米両国の思惑が語られる。ハーバード大卒でルーズベルトとも親しく交わった金子堅太郎男爵は米国各地で講演し、 文明国・日本はアジアを開化する役割を持つと広報した。ルーズベルトは日本がロシアの東進を食い止め、将来の米国の権益を確保するために「米国のゲーム」 を日本が演じるのを歓迎していた。

第8章 日本のモンロー主義

この章では金子男爵の米国での講演内容を引用し、男爵と親密だったルーズベルトの日本人観に多大な影響を及ぼした主張を詳説する。日本人は文化的にアーリ ア人に近く、列強に並ぶ資格があるという説は、日露戦争での連勝とともに好意的に受け止められ、大統領は密談で日本の「モンロー主義」であるアジア大陸へ の進出政策を後押しすると明言したが、これは自国の議会に了解を得ない空約束であった。

第9章 インペリアル・クルーズ

一行が日本の次に寄港したフィリピンでは、独立を要求する勢力と米軍の紛争が続き、経済が疲弊していた。米軍の残虐行為により反米感情が高まっていたが、 タフトはその空気に全く鈍感だった。一行は現地人とはほとんど交流せず、「フィリピン人は自己統治を要求する前に勤勉さを学べ」と訓戒を垂れて去る。

第10章 門戸開放と閉鎖政策

一行は次に中国へ向かうが、広東では反米機運が高まっていたため、夜陰に隠れての上陸となった。アヘン戦争から香港割譲、義和団事件までの列強の対中政 策、特に米国での中国系移民の境涯について多くが語られる。米国の大陸横断鉄道建設には中国人の技術力が大いに貢献したが、その後黄禍論により排外政策が 取られ、多くの中国人が強制送還され、集団虐殺事件も起こった。米国は中国に門戸開放を要求しながら、中国からの移民は締め出すという矛盾した政策を続け る。このため中国では反米ボイコット運動が高まるが、大統領は事態を重要視せず有効な政策を取らなかった。米国東部のエスタブリッシュメントの多くが、中 国のアヘン貿易により財をなしたことも語られる。

第11章  こっそり日本再訪

タフト一行とは中国から別行動を取ったアリスは、北京から日本を再訪する。万歳を叫ぶ群衆に迎えられた前回とは打って変って、日露戦争後の講和の場で日本 に賠償金を支払うようロシアを説得してくれなかった米国に日本国民は強い失望と怒りを向けていた。アリスは安全のため身分を隠し、英国人と偽って旅をす る。

第12章 韓国への裏切り

米国はポーツマス講和で交渉を助けなかった穴埋めをするかのように、日本の韓国併合をいち早く承認し、ソウルから公使館を引き上げた。米国を頼みとしてい た李朝はあっさりと裏切られた。著者は、これによりルーズベルトの米国が日本に大陸の植民地支配という「王国の鍵」を渡し、後の真珠湾攻撃に至る種を蒔い たと論じる。

第13章 日輪を追って

アリスとタフトとその後の人生に触れた後、著者はルーズベルト自身の著書を引用し、ルーズベルトとタフトの時代の外交は、白人優位と人種偏見にこり固まっ た単純な世界観に基づいたものであったと結論し、違った形で行っていれば、その後の太平洋戦争は避けられたのではないか、と問う。

本書について:

『硫黄島の星条旗』の著者が膨大な資料をもとに20世紀初頭の使節団の航跡をたどり、ルーズベルト外交の真の姿に迫る。

1905年、日露戦争のさなかに、セオドア・ルーズベルト大統領が東アジアへ送り出した使節団があった。米国西海岸からハワイ、日本、フィリピン、韓国、中国をめぐる船旅は、大統領の人種偏見に満ちた世界観に基づくアジア進出の野望をあらわすものだった…。

優 れたアーリア人の文明が西に向かって進み、野蛮な世界を啓蒙して行くという思想が、フロンティア消滅後太平洋に乗り出した米国の拡大政策の原動力であり、 アジア地域での20世紀のさまざまな問題の火種を蒔いたというのが本書のテーマである。白人は遺伝的に有色人種より優れた文明の担い手だという優性思想が 「科学的裏づけ」も得た当時の常識とされており、米国建国以来の「インディアンとの戦争」、フィリピンやキューバ、ハワイの併合といった一連の米国の政策 を推進し正当化して来た事実が、具体的なエピソードや豊富な画像資料により印象強く語られる。

明治維新以来西洋文明をわが ものとして取り入れ、「名誉白人」の地位を獲得した日本に対し、米国は自ら同様の拡大政策を薦め、大陸進出をけしかけた。こうした米国外交が、数十年後の 太平洋戦争につながる火種を蒔いたのではないか、と著者は主張する。『坂の上の雲』の時代、米国はどのような目で日本を見ていたのか。日米の対アジア外交 の行方に改めて関心が高まっている中、本書は新鮮な視点を提供するのではないだろうか。

ルーズベルト大統領は米国歴代大統 領の中でもよく親しまれ、伝記も多く書かれている。本書はこれまでの伝記作者が無視して来た大統領の偏見と虚像にスポットを当て、また、フィリピンでの残 虐な行為や中国人排斥、インディアン虐殺など、あまり語られることのない米国の過去をときにショッキングに取り上げる。21世紀の米国人による自国外交史 の見直しは、アジア各国の読者にとっても非常に興味深いものとなると思われる。

文章は平易で読みやすく、豊富な図版も効果的に使われており、難解さはなく一気に読める。18世紀以降の流れを説明しながらエピソードを挟む語りには、ときに掴みが大雑把な部分もある。特に日本の 読者に対しては、鎖国から明治維新への歴史は簡単に端折りすぎていると感じられるかもしれない(討幕派と佐幕派に分かれた幕末の記述がほとんどないなど)。しかしながら、日米関係には中心となる3章、ならびに後半の2章が割かれており、本書の主眼である「米国が新生日本に侵略を教えた」という視点が説得力をもって語られている。日本近代史を考える際に興味深い一冊となることだろう。

(シノプシス文責:Pondzu@ Yuzuwords )