品格 Integrity

2014-0226

<Integrity>

企業のHR関連資料などを訳していてよく出て来るのだけど、出て来るたびに頭をかかえる単語。

辞書には「高潔、洗練、品位、誠実、完全な状態」などの訳語が並んでいるけど、それを当てはめてもすっきりした文章には絶対にならない。

「エンパワーメント」とか「インクルーシブ」とか「エンゲージメント」とかも同じ。こういう単語を私は loaded words と呼んでいる。
なぜならば、書き手の想いや主張や背景がてんこもりになっているから。
読む人によって微妙に解釈が違ったりするのも、こういうloaded words の特徴だから、簡単に訳語を当てはめるだけでは書き手の意図が伝わらないことが多いと思う。

社内向けの資料でも消費者向けのブロシュアでも、こういう単語は、書いた側が読み手に「こう感じてほしい」という想いをがっつり載せている。

たいていこういう単語は、ここ数年の間の社会現象の結果、企業の立場や関係性を主張したり説明しなければならない背景で生まれてきたもの。
だから、日本語に同じ概念があるとは限らない。

前回の記事で書いた「インクルーシブ」なんか、その典型。日本社会ってもともと、というか戦後民主主義のおかげで、全員がインクルーシブというのがタテマエだから(実際はどうであれ)、日本に住んで日本の社会の枠組み内で暮らしている人に、その言葉の必要性自体がピンと来なくても当然かもしれない。

で「integrity」。

Googleで出てくる定義は、
「the quality of being honest and having strong moral principles; moral uprightness.」
誠実で、強い倫理感をもち、それに従って行動する個人、または主体。企業が主体の場合もある。
Google辞書の日本語訳は面白い。

保全、清廉、正直、剛直、節操、律儀、円満、善心、善徳、敦煌、允、整合性

敦煌??

A man of integrity
というと、正義感が強く、言うこととやることが一致していて、信頼のおける人、という意味になる。

このコンセプト自体には、日本でも全く同じものがあると思うけど、日本語の熟語一つで言い表すとしたらこれ、というのが思い当たらない。誠実さ、だけではなくてその誠実さに基づいて「一貫した行動」を伴う生き方、あり方、という意味。言行一致して、結果になって(「整合性」として)あらわれているかどうかということに重きが置かれていると思う。

一番感覚として近いのは、少し前に日本で流行語になっていた「品格」かなあ、と思う。品性というのは「属性」なので、ちょっと微妙に違うかも。「品格」というのは多分、それまでの努力が実を結んだ「結果」が含まれていると思うので。

こないだ訳した企業の社内向け資料の中には「integrity issue」という単語があった。
これにはますます頭をかかえる。

たとえばぐぐってみると、オーストラリアのビクトリア州の警察の「Office of Integrity」という役所のガイドがでてきた。これなんかこの単語の用例として、すごくわかりやすい例だと思う。
たぶん(想像だけど)、何らかの汚職事件があってやり玉にあげられたとか、あるいは近隣の州の警察がやり玉にあげられているのを見て、その轍を踏まないようにしているのか、いずれにしても、integrity を高めることで生産性をあげ、不正をなくして、マスコミから叩かれたりすることの決してないようにしよう、という姿勢を、警察の内部向けに徹底するために作られた内部向けプレゼンテーション資料らしい。

なぜ警察にはintegrity が求められるのか、ということを次のように説明してる。

An ethical and professional workplace is the best safeguard against risks to
integrity, including improper conduct, misconduct and corruption.
(倫理にかなったプロフェッショナルな職場作りは、不正行為、違法な行為、汚職など、信頼に関わるリスクに対するセーフガードの役割を果たします。)

上の試訳ではrisks of integrity を「信頼に関わるリスク」としてみた。
企業の場合も、integrity issue は、バレたら社会から糾弾され、バカにされるかもしれないような不正や不法行為に関わる問題、という意味で「企業としての信頼性に関わる問題」とか「社会的信用に関わる問題」としてもよいのではなかろうか。

雇用される側のintegrity については、About.com に「Integrity って結局何なの?」という記事があった。

いろいろと具体例をあげて、これがINTEGRITYだ!というシナリオを紹介してるんだけど、その中に、

バーバラは会社の女子用トイレにいきました。用を済ませたら、その個室のトイレットペーパーを使い切ってしまいました。個室内には予備のロールはありません。ペーパーなしの状態でトイレを置き去りにするかわり、彼女はオフィスに戻る前にトイレットペーパーを探しに行き、個室に補充してあげました。これには5分かかりましたが、バーバラはこうすることで同僚が窮地に陥るのを防いだのです!

なんていう例が載ってました。これはたしかに、品格ある行いですね!!

 

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排他的でない Inclusive

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先日、スーパーボウルの試合の間に流れるCMを見てびっくりした件をこちらのブログに書きました。

とにかく Inclusive & Diversity を強調したCMが多くて、驚いた。

人種とか肌の色とか性別とか性的指向とか宗教とか年齢とか、そういったあらゆる要素で多様性を尊重する、というのは過去15年の間に「スローガン」からようやく「常識」になったなというのが生活実感。
私がアメリカに住むようになったのがもうかれこれ17年前。当時だって表立っての人種差別がもし露見すれば厳しく追求されたものの、暗黙の壁は厚かった。黒人大統領が生まれるとは思いもよらなかったし、ゲイピープルはいつもマッチョなジョークの対象になってた。ハワイでも同性婚を認めるかどうかの住民投票が否決されていた。
ここ数年での変化は、やはり目をみはるものがある。もはや同性婚は当然の権利として認められてしまったし、もう後戻りはできない。

もちろん変化を苦々しく思っている人たちも数多くいるのは当然のこと、だけど彼らはもはやマジョリティではなくなってきた。
新しいマイクロソフトのCEOはインド人だし。
イデオロギーの変化ではなく、社会と経済が変わったってこと。企業は変化に合わせないと商売ができない。

Diversity (多様性)というのは企業のスローガンになって久しい。違う要素の存在を認め合いましょうという、「多様性」は、日本語にしても感覚的にわかると思う。

でも最近Diversity とセットで使われるようになってるInclusive という言葉のほうは、もうちょっとわかりにくい言葉じゃないだろうか。

「包括性」と訳されている/訳してしまう場合が多いけど、
「XXXは職場の包括性を尊重する会社です」
ではやっぱり意味がよくわからないのではないかと思う。

Inclusive は、Exclusiveとセットの概念であって、そのむかし、といってもほんの数十年前までは、たとえばカイシャは、特に役員の世界(「Cスイート」)なんかは、完璧に白人男性(そして主にワスプ)だけが存在する Exclusive な世界だった。もはやウチの会社はそんな排他的な社会ではなくていろんな人が入ってますよ、どんな人も歓迎しますよという意味でInclusiveが使われはじめた。

60年代マンハッタンの広告やさんを描いたドラマ『MadMen』をみると、あの時代のあまりにも露骨で反省のない「エクスクルーシブ」さ=排他性に、あらためて感銘を受けるしくみになっている。 企業にいる女性はセクレタリーのみ、オフィスビルで働く黒人はエレベーターボーイやドアマンのみだった。

なので「包括性」というと、そのへんの背景がそっくり抜け落ちた辞書の訳語になってしまうのではないだろうか。文章の中では、まだるっこしいけど「排他性のなさ」とかにしたほうが意味は伝わるのではないかと思う。

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ヒューストン、問題が… Huston, we have a problem

2014-0131

誤訳には法則がある。
というほどのものではないですが、訳文を見て、すっきり頭に入らない時には誤訳の可能性が高い。

先日、翻訳チェックをしていて、とんでもない訳にでくわしました。

とある企業の社内プレゼンテーションのページのタイトルが、
「ヒューストンで見つけたこと」
となっていた。

ん?
この会社、テキサスとは何の関係もないんですけど?
研修旅行でもあったのかな? 取引先がヒューストン?

と疑問に思いながら原文を読んで、びっくり。

HUSTON, We Have a Problem

でした。
マジですか。ページの内容も、もちろんテキサスとも、アメリカとさえも関係なくって、(日本に本社をもつ欧州法人でしたから)こういう状況ですよ、と本社事業部に
課題を報告する内容でした。

もちろん、このあまりにも有名なフレーズは、1970年のこの事件から来てます。

でもたとえそれを聞いたことがなくても、たとえ映画『アポロ13』を見たことがなかったとしても!訳してみて「なんか変だな」と思わなかったんでしょうか?
テキサスに何の関係が? と疑問に思う>>>グーグルでフレーズ検索してみる
たったの数分でできること。

私も偉そうに言えるほどミスがないわけではぜーんぜんありませんが、思い込みには気をつけよう、と改めて感じた一件でした。

こういうタイトルは、もう「ヒューストン」を使うと日本の読み手にはなんだか意味不明になっちゃいますから、さっくり意訳させて頂くしかないです。よほどこの言い方に意味があれば別ですが。なんと訳したかは忘れてしまいましたが、本文から一部を取って「こんな状況ですが…」というのがひと目で見て取れるようなストレートなタイトルが望ましいのではないかと思いますが、如何でしょう?

 

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グリッドロック Gridlock

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1月末、Polar Vortex のおかげでまた南部に寒波がおしよせて、ちょっとした雪が降って道路が凍ったために、積雪への用意がない南部の都市はいっせいに麻痺状態になった。

とくにアトランタはひどかった。たった数センチの積雪が凍りついて道路がスケートリンク状態になり、主要道路のあちこちでクルマがスリップして、帰宅ラッシュ時には道路は全面的にシャットダウン。
アトランタ在住の友人は、仕事から帰るときにこの大渋滞に巻き込まれて、ふだん20分で帰れる道を12時間かかって明け方にやっとたどりついたのだという。あまりに気の毒すぎる~~。
(上の写真は彼女が動かないクルマから撮ったもの。このあとまだ何時間もかかるとは…)

シアトルでも2010年に大雪(といっても数センチ)が降ったとき幹線道路でクルマが何マイルも数珠つなぎになって、帰宅ラッシュのピークに重なり、何千人もの人が「グリッドロック」に閉じ込められた。
この時は最大で6時間から7時間だと聞いたから、アトランタは単純に言ってその2倍はひどかったことになる。

このGridlockという単語、日本では東日本大震災の直後に東京で起こった大渋滞に対して使われていた。

車両が道路上に滞留してほとんど動かなくなる「グリッドロック」と呼ばれる渋滞現象」(『防災新聞』2012年11月6日)と説明されている。日本語になってたんですね。

同時多発グリッドロック」という用語解説もあった。

この記事によると、東日本震災の直後、3月11日に起きたものは、これまで日本で発生した中で最大規模だったとのこと(解消に翌日までかかった、本当に超渋滞)。

英辞郎さんにはなぜか「(都市の交差点での)交通渋滞」という訳語が一番最初に載ってるけど、数十分で解消するような普通の交通渋滞に対しては、「グリッドロック」は使われない。

使われるとすればわざと大げさに言う比喩的表現として、だろう。

ということで辞書には載ってませんが、「超渋滞/グリッドロック」というのが、正確な訳語といって差し支えないようです。

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