シアトル酋長のスピーチ 

Chief Seattle’s Speech
(Henry Smith’s Account)
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シアトル酋長のスピーチ (ヘンリー・スミス博士による記録)

遥かな空、我らの父の上に、幾星霜にもわたって祖先たちの上に慈悲の涙を注いで来た、あの永遠と思えた空が、変わったのかもしれぬ。今日は晴れ渡っていても、明日は雲に覆われるだろう。私の言葉は、沈まぬ星のように留まる。このシアトルの言葉に、偉大な酋長、ワシントンは(原注)信を置くが良い。白い顔の兄弟たちが季節の巡りを信ずるのと同じ確かさで。

白い酋長の息子は親愛と友好の挨拶を託されてきたという。寛大なことだ。彼らは我らの友情を必要としてはいないのだから。彼らの数は多いからである。広大な平原を覆う草のように、白い人の数は多く、我が民は少ない。嵐の過ぎ去ったあとの原に、わずかに残された木のように、少ない。偉大な、そして善良であると信ずる、白い酋長が、我が民の土地を買いたいという。我らが快く住むに充分な土地は用意するという。寛大な申し出に見える。赤い人にはもはや守るべき権利はないのだから。この申し出は賢明であるかもしれない。我らはもはや、この偉大な土地を必要としてはいないのだから。

かつて我が民はこの土地を覆いつくした。風に波立つ海が、貝殻の敷き詰められた海底を覆うように。だがその時は過ぎ去り、我が部族の偉大さも忘れられようとしている。しかし、私は我らの早すぎる衰えを嘆くまい。白い顔の兄弟が衰えを早めたと咎めることもすまい。責は我らにもあるのだ。

若い者たちが、実際の、または想像上に行なわれた不正に怒りをつのらせ、顔を黒く塗りつぶすとき、彼らの心もまた黒く塗りつぶされている。その心の残忍さ、執拗さはとどまるところを知らない。我ら長老は彼らを止めることができない。

しかし、赤い人と白い顔の兄弟たちの憎しみ合いが再び起こることのないように願おう。失うものは多く、得るものとて何もないのだから。若い勇士たちの手になる復讐は、たとえ彼らが命を落とすことになっても、価値ある勳とたたえられる。だが年老いて戦の時にも家に残る男たち、息子を戦に見送る年老いた女たちは、より深く知っている。

偉大な父、ワシントンよ。ジョージ(現注)が国境を北に移したいま、あなたは我らの父ともなった。偉大で善良なる父がその息子を遣わした。偉大な父の息子もまた、偉大な酋長であることだろう。彼の言葉に従えば、我が民を守ってくれるだろう。彼の率いる勇敢な軍隊は、我が部族を守る砦となり、偉大ないくさ船が我らの港を満たし、我らの旧い敵、北方の民シムシアムやハイダはもはや我が民の女や老人を脅かすことがなくなるだろう。その時、彼は我らの父となり、我らは彼の子となるであろう。

しかし、そんなことがありえようか。あなた方の神はあなたの民を愛し、我が民を憎む。あなた方の神はその強い腕で白い人を抱き、父が幼子を導くように導くが、赤い子どもたちを見捨てる。あなた方の神はその子どもたちを育み日ごとに強くする。すぐに彼らは地に満ち、我が民は引き潮のように見る間に衰えていくだろう。我らはみなしごのように、どこにも助けを求めることができない。どうして我らが兄弟となれるだろうか。あなた方の父がどうして我らの父となり、我らに豊かさをもたらし、偉大さを再び取り戻すことができるだろうか。

あなた方の神は偏っている。あなた方の神は白い人のために来た。我らはその神を見ることなく、声を聞いてもいない。あなた方の神は白い人に律法を与えるが、星が天空を満たすようにこの広大な大陸を満たす何百万の赤い子どもたちには語りかけない。我らは異なる種族であり、これからもそうであり続けねばならない。我らにほとんど似たところはない。我らの祖先の灰は神聖であり、その安息の地は神聖な場所だ。しかしあなた方は父祖の墓をおいて遥か彼方へ彷徨い出、悔いてもいないようだ。あなた方の宗教は、あなた方が忘れることのないように、石の板に怒れる神の鉄の指で書かれている。赤い人にはそれを決して覚えることも、理解することもできないだろう。

我らの宗教は我らの父祖の伝統であり、偉大なる霊が我らの長老に授けた夢であり、酋長らの見たビジョンであり、我が民の心にのみ書かれている。

あなた方の死者は、黄泉の国の入口に着くやいなや、あなた方や故郷の家を愛することを止めてしまう。彼らは星の彼方へ彷徨い出で、すぐに何もかも忘れ、二度と戻らない。

我が民の死者は、彼らが命を得ていたこの美しい世界を決して忘れぬ。彼らは曲がりくねった川や孤独な魂を見下ろす偉大な山々を変わらず愛し、しばしばこの世に戻って彼らを慰める。

昼と夜は共に住むことはできない。これまでも赤い人は白い人の歩みの前に逃れ去って来た。山の端の朝霧が強い朝陽を逃れるように。

しかし、あなた方の申し出は正しいものに見えるから、我が民はそれを受け入れ、申し出の通り居留地に移ることだろう。そして白い人とは離れて平和に暮らすことだろう。偉大な白い酋長の声は、濃い闇を通して我が民に語りかける自然の声のようであるからだ。闇は我が民のまわりに、真夜中の海から漂ってくる濃霧のように満ちていくばかりだ。もはや、最後の日々をどこで過ごすかはそれほど重要ではない。それほど長いことではないのだから。

インディアンの夜は深い闇となろう。地平の上に明るい星はひとつも輝いてはいない。物悲しい風の声が遠くで嘆いている。赤い人の道の上には、我ら種族の恐ろしい敵が待つ。どこに向かおうとも、赤い人は破壊者の足音が確かに迫るのを聞き、不運に出遭う覚悟を決めるしかない。手傷を負った鹿が狩人の足音に耳を澄ませるように。あといくつかの月が巡り、あといくつかの冬が巡る頃には、かつてこの地の強大な主であり、この広大な地を満たした者たち、今ではわずかな群れとなり、茫漠とした孤独の中を彷徨っている者たちはついに一人もいなくなるだろう。かつてはあなた方と同様に強く希望に満ちていた人びとの墓の前で嘆く者は、一人もなくなってしまうことだろう。

しかし、嘆くことがあろうか? 我ら部族の命運に不平を言って何になろう。部族は人からなるもので、一人の人間となんら変わることはない。海の波のように、人は来たり、去っていく。涙が流され、タマナワスが[TS1] (注1)行なわれ、悲歌が歌われ、嘆き惜しむ我らの目の前から永遠に去っていく。白い人でさえも、神と共に歩み、友人のように神と語らう白い人びとでさえも、すべてに共通の命運からは逃れられない。やはり我らは兄弟かもしれぬ。未来が答えを出すだろう。


 [TS1](訳注)ピュージェット湾地域のネイティブ住民の複雑な宗教習慣を指すことば。(Furtwangler32 -35)

 

我らはあなた方の申し出を深く考え、結論が出たら知らせよう。しかし、申し出を受けるなら、ここで一つ最初の条件をつけておきたい。我らが邪魔をされずに祖先や友人の墓を訪ねる権利を認められることだ。この地のすべては、我ら部族にとって神聖なものだ。すべての丘陵、すべての谷、すべての平原、すべての木立ちに、我ら部族の暖かい思い出や悲しい記憶がまつわり、すべてを神聖にしているのだ。

暑い日ざしを浴びて海辺に黙しているだけに見える雄雄しい岩でさえも、我ら部族の運命にまつわる過去の記憶に打ち震えている。あなた方の足の下にある土くれでされも、我らの歩みにはあなた方の歩みよりも親しみをもって応える。この土は我らの祖先の体だからだ。我らの裸足の足は土のこころを敏感に受け止める。土には部族の命が色濃く含まれているからだ。

黒装束の戦士たち、優しい母たち、ほがらかな娘たち、小さな子どもたちがかつてこの地に、喜びに満ちて住まっていた。彼らの名は失われても、彼らは今もこの地の静寂を愛し、この地に結ばれ、夕闇の濃くなる中に仄暗い魂となって姿を現すだろう。最後の一人となった赤い人が地の表から消え、白い人びとの記憶に残る赤い人の姿が伝説と化した後も、この岸辺には姿の見えない私の部族の死者たちが満ちるだろう。あなた方の子どもたちの子どもたちが、畑の中で、店で、道路で、あるいは森のしじまの中に一人でいると考えるとき、彼らは決して一人ではない。この地の上に、人が一人きりでいられる場所はひとつもない。夜、あなた方の町や村の通りが静寂に包まれ、人影ひとつないと思うとき、そこはかつてこの地に満ち、この美しい土地を今も愛し、戻って来る死者たちの群れで覆われているだろう。白い人が一人になることは決してない。白い人が私につながる人びとを正しく遇さんことを。死者はいつも無力ではないのだから。

原注1(Dr. Smith による)
当時のインディアンは、ジョージ・ワシントンがまだ生きているものと考えていた。彼らはワシントンが大統領の名だと知っていたので、ワシントンの大統領と聞いて、都市の名前を生きていて統治している酋長の名と勘違いしたのである。また、彼らは英国はまだジョージ王が治めていると信じていた。なぜなら、ハドソン・ベイ(訳注:19世紀にピュージェット湾地域に基地をおき、貿易活動をしていた英国の貿易会社Hudson Bay Company。インディアンと密接な親交があった)の貿易商人たちは自らを「キング・ジョージの民」と呼んでいたからである。この罪のない惑わしにより、ハドソン・ベイの人びとは抜け目なくも、インディアンに事実を説明せずに済んでいた。英国が女王によって統治されていることを知ったら、インディアンから同等の尊敬を得られないかも知れないからである。

訳:城田朋子 Pondzu@ Yuzuwords

参考:Albert Furtwangler, Answering Chief Seattle, 1997 Seattle, University of Washington Press

シノプシス:Imperial Cruise

仮題『大統領のクルーズ』

原題:Imperial Cruise

著者: James Bradley (ジェイムズ・ブラッドレイ)

発行年月:2009年11月(ペーパーバック版2010年11月)

版元:Little, Brown & Company /Hachette Book Group

ページ数: 本文ページ数336

【著 者について】1952年、ウィスコンシン州生まれ。第二次大戦の激戦地硫黄島で星条旗を立てる兵士の銅像のモデルとなった父が、戦争で実際に何を体験した のか、父の死後に調査し書き上げた『硫黄島の星条旗』(文春文庫)はクリント・イーストウッド監督により2006年に映画化された(映画邦題『父親たちの 星条旗』)。本作は3作目のノンフィクション。著者ウェブサイト:http://jamesbradley.com/

【概要】歴史ノンフィクション。20世紀初頭、セオドア・ルーズベルト大統領が東アジアへ送り出した使節団の軌跡を追いながら、米国の拡大政策と人種偏見が20世紀のアジア地域に残した影響を鋭く批判する。

目次

第1章    20世紀初頭の航海 One Hundred Years Later

第2章    文明は西へ Civilization Follows the Sun

第3章    博愛精神 Benevolent Intention

第4章    太平洋のニグロ Pacific Negroes

第5章    ハワイ Haoles

第6章    名誉白人 Honorary Aryans

第7章    ルーズベルトのゲーム Playing Roosevelt’s Game

第8章    日本のモンロー主義 The Japanese Monroe Doctrine for Asia

第9章    インペリアル・クルーズ The Imperial Cruise

第10章  門戸開放と閉鎖政策 Roosevelt’s Open and Close Doors

第11章  こっそり日本再訪 Incognito in Japan

第12章  韓国への裏切り Sellout in Seoul

第13章  日輪を追って Following the Sun

 

第1章    20世紀初頭の航海

『硫 黄島の星条旗』で、自分の父親が体験した第二次大戦の虚実を追った著者は、米国が戦争に至った理由に興味を持ち、その発端を1905年の使節団航海に見出 した。Tルーズベルト時代の米国は太平洋への勢力拡大をすすめ、アジア太平洋地域の各地に深い影響を残した。航海から100年後にあたる2005年、著者 はすべての寄港地を取材し、これまでの伝記では明らかにされて来なかった大統領の秘密外交や歪んだ人種観が蒔いた種を見出した。

第2章  文明は西へ

1905年、タフト陸軍相、ルーズベルト大統領の娘アリス、米国議員30名からなる大使節団が客船「マンチュリア」号でサンフランシスコからアジアを目指 し出港した。21歳のアリスは「プリンセス」として行く先々でマスコミの大きな注目を集め、広告塔の役割を果たした。この章はアリスの生い立ちに触れなが ら一行の船出までの足取りを追い、サンフランシスコでの「フィリピン人に自己統治能力はない」というタフトの講演を紹介する。これはアーリア人は優秀人種 であり世界文明の担い手だという当時の常識・学説に基づいたものだった。章の後半ではルーズベルト大統領の富裕な生い立ちと、「未開の地を銃で征服する マッチョな白人男性」という虚構がいかに作られ、当時の社会に広く影響したかが述べられる。

第3章  博愛精神

こ の章は、米国建国以来の西進政策を詳説する。対インディアン戦争は米国のもっとも長い戦争であり、軍による虐殺であった。原住民を掃討しながら西へ国土を 広げた米国は、19世紀、海外に目を向ける。マッキンリー大統領の下で重要ポストに就いたルーズベルトは急進的開戦主義者で、米西戦争に向け国を動かした 一人だった。キューバ人民の解放を大義とした米西戦争で米国はカリブ海と太平洋に勢力を広げるが、スペインから「解放」した有色のキューバ人やフィリピン 人を米白人は下等人種とみなし、博愛精神をもって野蛮人を文明化するのは優等人種である白人の責務であると喧伝し、植民地化を正当化する。

第4章  太平洋のニグロ

米西戦争後の米国によるフィリピン制圧と統治の実態を描く。フィリピン人政府は正常に機能しているという報告は握りつぶされ、米軍が独立を求める人民軍を 制圧、軍を挙げて拷問、強姦、略奪など残虐な行為を繰り返し、一般人多数を殺害した。近年イラク戦争で問題となった「水責め」の拷問は、当時日常的に行な われていた。米国はフィリピン総督を置き、少数の現地人エリートに利権を付与し、後の腐敗政治の基礎を築いた。マッキンリー暗殺後大統領に就任したルーズ ベルトは、セントルイス万博の展示で、フィリピン人の未開性を米国市民に印象付けることに成功した。

第5章  ハワイ

フィリピン総督を務め、陸軍相となり、後に大統領となるタフトの背景やキャラクターを紹介。サンフランシスコから到着した「マンチュリア」号の一行を歓迎 するホノルルの様子を紹介し、航海の10年ほど前に米国領となったハワイの歴史に触れる。宣教師として来た白人たちは1世代の間にハワイの政治中枢を握 り、やがて砂糖きび農場主の米国白人が海兵隊を動員して強引に王権を覆し、米国に併合させた。ここにも明らかな米国の拡大・植民地主義があった。

第6章    名誉白人

横浜に寄航した「マンチュリア」号一行は熱狂的な歓迎を受ける。日露戦争で米国が日本の側に立ち、ロシアとの間で講和を有利に進めてくれるとの期待による ものだった。ペリー来航から明治維新、日露戦争までの歴史を、帝国主義に傾いていた米国からの視点で語られ、新生日本政府に台湾出兵を焚きつけた米人リ・ ゼンドルが日本帝国主義の萌芽を生んだ人物としてe描かれる。列強に追いつこうと西洋文明をためらわず取り入れた日本人を米国人は「名誉アーリア人」と位 置づけ、自らのアジア進出の駒として利用しようとした。

第7章 ルーズベルトのゲーム
この章では、日英同盟から日露開戦までの日米両国の思惑が語られる。ハーバード大卒でルーズベルトとも親しく交わった金子堅太郎男爵は米国各地で講演し、 文明国・日本はアジアを開化する役割を持つと広報した。ルーズベルトは日本がロシアの東進を食い止め、将来の米国の権益を確保するために「米国のゲーム」 を日本が演じるのを歓迎していた。

第8章 日本のモンロー主義

この章では金子男爵の米国での講演内容を引用し、男爵と親密だったルーズベルトの日本人観に多大な影響を及ぼした主張を詳説する。日本人は文化的にアーリ ア人に近く、列強に並ぶ資格があるという説は、日露戦争での連勝とともに好意的に受け止められ、大統領は密談で日本の「モンロー主義」であるアジア大陸へ の進出政策を後押しすると明言したが、これは自国の議会に了解を得ない空約束であった。

第9章 インペリアル・クルーズ

一行が日本の次に寄港したフィリピンでは、独立を要求する勢力と米軍の紛争が続き、経済が疲弊していた。米軍の残虐行為により反米感情が高まっていたが、 タフトはその空気に全く鈍感だった。一行は現地人とはほとんど交流せず、「フィリピン人は自己統治を要求する前に勤勉さを学べ」と訓戒を垂れて去る。

第10章 門戸開放と閉鎖政策

一行は次に中国へ向かうが、広東では反米機運が高まっていたため、夜陰に隠れての上陸となった。アヘン戦争から香港割譲、義和団事件までの列強の対中政 策、特に米国での中国系移民の境涯について多くが語られる。米国の大陸横断鉄道建設には中国人の技術力が大いに貢献したが、その後黄禍論により排外政策が 取られ、多くの中国人が強制送還され、集団虐殺事件も起こった。米国は中国に門戸開放を要求しながら、中国からの移民は締め出すという矛盾した政策を続け る。このため中国では反米ボイコット運動が高まるが、大統領は事態を重要視せず有効な政策を取らなかった。米国東部のエスタブリッシュメントの多くが、中 国のアヘン貿易により財をなしたことも語られる。

第11章  こっそり日本再訪

タフト一行とは中国から別行動を取ったアリスは、北京から日本を再訪する。万歳を叫ぶ群衆に迎えられた前回とは打って変って、日露戦争後の講和の場で日本 に賠償金を支払うようロシアを説得してくれなかった米国に日本国民は強い失望と怒りを向けていた。アリスは安全のため身分を隠し、英国人と偽って旅をす る。

第12章 韓国への裏切り

米国はポーツマス講和で交渉を助けなかった穴埋めをするかのように、日本の韓国併合をいち早く承認し、ソウルから公使館を引き上げた。米国を頼みとしてい た李朝はあっさりと裏切られた。著者は、これによりルーズベルトの米国が日本に大陸の植民地支配という「王国の鍵」を渡し、後の真珠湾攻撃に至る種を蒔い たと論じる。

第13章 日輪を追って

アリスとタフトとその後の人生に触れた後、著者はルーズベルト自身の著書を引用し、ルーズベルトとタフトの時代の外交は、白人優位と人種偏見にこり固まっ た単純な世界観に基づいたものであったと結論し、違った形で行っていれば、その後の太平洋戦争は避けられたのではないか、と問う。

本書について:

『硫黄島の星条旗』の著者が膨大な資料をもとに20世紀初頭の使節団の航跡をたどり、ルーズベルト外交の真の姿に迫る。

1905年、日露戦争のさなかに、セオドア・ルーズベルト大統領が東アジアへ送り出した使節団があった。米国西海岸からハワイ、日本、フィリピン、韓国、中国をめぐる船旅は、大統領の人種偏見に満ちた世界観に基づくアジア進出の野望をあらわすものだった…。

優 れたアーリア人の文明が西に向かって進み、野蛮な世界を啓蒙して行くという思想が、フロンティア消滅後太平洋に乗り出した米国の拡大政策の原動力であり、 アジア地域での20世紀のさまざまな問題の火種を蒔いたというのが本書のテーマである。白人は遺伝的に有色人種より優れた文明の担い手だという優性思想が 「科学的裏づけ」も得た当時の常識とされており、米国建国以来の「インディアンとの戦争」、フィリピンやキューバ、ハワイの併合といった一連の米国の政策 を推進し正当化して来た事実が、具体的なエピソードや豊富な画像資料により印象強く語られる。

明治維新以来西洋文明をわが ものとして取り入れ、「名誉白人」の地位を獲得した日本に対し、米国は自ら同様の拡大政策を薦め、大陸進出をけしかけた。こうした米国外交が、数十年後の 太平洋戦争につながる火種を蒔いたのではないか、と著者は主張する。『坂の上の雲』の時代、米国はどのような目で日本を見ていたのか。日米の対アジア外交 の行方に改めて関心が高まっている中、本書は新鮮な視点を提供するのではないだろうか。

ルーズベルト大統領は米国歴代大統 領の中でもよく親しまれ、伝記も多く書かれている。本書はこれまでの伝記作者が無視して来た大統領の偏見と虚像にスポットを当て、また、フィリピンでの残 虐な行為や中国人排斥、インディアン虐殺など、あまり語られることのない米国の過去をときにショッキングに取り上げる。21世紀の米国人による自国外交史 の見直しは、アジア各国の読者にとっても非常に興味深いものとなると思われる。

文章は平易で読みやすく、豊富な図版も効果的に使われており、難解さはなく一気に読める。18世紀以降の流れを説明しながらエピソードを挟む語りには、ときに掴みが大雑把な部分もある。特に日本の 読者に対しては、鎖国から明治維新への歴史は簡単に端折りすぎていると感じられるかもしれない(討幕派と佐幕派に分かれた幕末の記述がほとんどないなど)。しかしながら、日米関係には中心となる3章、ならびに後半の2章が割かれており、本書の主眼である「米国が新生日本に侵略を教えた」という視点が説得力をもって語られている。日本近代史を考える際に興味深い一冊となることだろう。

(シノプシス文責:Pondzu@ Yuzuwords )

せいうちと大工

The Walrus and the Carpenter

せいうちと大工 (『鏡の国のアリス』より)

ルイス・キャロル作

太陽は海に照りつける
ぎらぎら照りつける
荒れ波をなだめて輝かせ
せいいっぱいの大仕事
おかしなことだ、今はすっかり
真夜中なのに

月はむっつり照りつける
太陽がこんなとこにまで
しゃしゃり出るのが気に障る
もう一日は終わったのに
「まったく何てずうずうしい」と月
「楽しい時が台無しだ」

海は濡れてる、思いきり
砂はさらさら乾いてる
雲ひとつだって見えるものか、だって
空には雲ひとつないんだから
空には鳥一羽も飛んでやしない
飛ぶ鳥なんか一羽もいない

セイウチと大工が
近くを歩いてた
見るものすべてに涙を流す
なんてたくさんの砂だろう
「この砂片付けられたらなあ」
二人は言った、「素敵になるのに!」

「女中さんが七人、モップ七本で
半年ずっと掃き続けたなら
どうだろう」とセイウチが言った
「きれいに全部片づくかな」
「どうだかね」と大工が言った
そして二人は涙にくれた

「おお牡蠣くんたち、一緒に歩こう!」
セイウチが熱心に呼びかけた
「楽しいお散歩、楽しいお話、
しょっぱい浜辺を歩こうじゃないか
一度に四人までだけど
両手にめいめい手を取って」

年寄り牡蠣はじっと見て
口をつぐんだままだった
年寄り牡蠣は片目をつむり
重い頭を横に振った
牡蠣床を離れる気はないよ
口を開いてそう言う代わり

けれども若い牡蠣たち四人、急いでそばへやって来て
みんな夢中で行きたがる
外套にブラシもかけたし、顔もきれいに洗ったし
靴もぴかぴか、小ぎれいに
おかしなことだよ、
足もないのに

後からもう四人の牡蠣が追って来て
その後からもまた四人
でっぷりしたのが急いで続く
その後からも、まだ後からも
白波かきわけぴょんぴょん飛んで
浜辺を目指してやって来た

セイウチと大工は
一マイルも歩いた後で
岩にどっかり腰を下ろした
ちょうどぴったりの良い低さ
小さな牡蠣たちは一列に
並んでじっと待っていた

「さあ時は来た、」とセイウチが言った
「今が、いろいろ話す時。
靴のこと。船のこと。封蠟のこと。
キャベツのこと。王様たちのこと。
どうして海が煮立っているのか。
豚には羽根があるのかないのか」

「でもちょっと待って」と牡蠣が叫んだ。
「お話する前に
息が切れちゃって
ぼくたちみんな太っちょで!」
「急ぎはせんよ!」と大工が言った
そこで牡蠣たちは感謝した

「パンが一斤」セイウチが言った
「ぜひとも要るな
コショウにお酢もあると
なおよろしい
それじゃあ牡蠣たち、
準備がよければ食べようか」

「でもぼくたちをじゃないでしょう!」
牡蠣は叫んだ、少し青くなって
「あんなに親切にしてくださった後で
そんな仕打ちはあんまりです!」
「今夜は素敵だ」セイウチは言った
「いい眺めじゃないか」

「ついて来てくれてありがとう!
親切なことだったね」
大工はこれには何も言わず
「もう一切れ切ってくれ
あんた金つんぼかね
二度頼まなきゃならんのか」

「悲しいことだ」とセイウチは言った
「あの子たちをだますなんて
こんなに遠くに連れて来て
あんなに速く歩かせて!」
大工はこれには何も言わず
「バターを厚く塗りすぎだ!」

「泣けるじゃないか」とセイウチは言う
「胸が痛むよ、ひどい話だ」
めそめそ泣きながらセイウチは選り分けた
一番大きいやつばかり
ハンケチをしっかり握りしめ
泣きの涙をぬぐいながら

「おお牡蠣くんたちよ!」と大工は言った
「楽しい散歩だったね!
さあ、そろそろ帰るとするかね?」
けれども答えは一つもなかった
それもそのはず、一つのこらず
みんな食べられちゃったのだから

(訳:Pondzu@ Yuzuwords )